ここで言う池は湖ほどの大きさではない。
池や沼は人の住む近くにあってなんとなく薄気味悪い条件を持っている。
例えば河童や大蛇や大蛙などの主(ぬし)が棲みついている感じがする。
しかし子供心に冒険心があってその主を見たい、
あわよくば発見し摑まえたいと恐る恐る近づいたものだ。
それは今で言う里山の中にある。
近くの丘から雨水が流れ滲みこんだ溜まり場で、
お百姓さんたちが便利に使う水溜りだ。
そこには独特の世界がある。昆虫や鳥達の生存競争の場である。
即ち戦場なのだ。生きるために水場に集まる。
そこでいのちが生まれ、生きるために争い、屍から新たないのちが生まれる。
泥に埋まった水底でも死に物狂いの戦いが行なわれている。
表面が氷りついたいまでもその様子は変わらない。
それでこそ池や沼は生きている。